昨日の夜に耳を疑うようなニュースが飛び込んできました。ハリルホジッチ日本代表監督が解任されるというのです。
今までにあった解任系のニュースと同じだろうなと思っていましたが、緊急会見を開く予定ということでどうやら誤報やトバしの類ではないらしい。
正直ここにきて、サッカー協会は最悪の一手を打ってきたなという感想しかありません。
この記事の内容
ハリルホジッチ監督が解任!?
解任論の根拠はあるのか
解任論者の意見としてよく目にするのがこういう論調
- サッカーが退屈
- 一貫性のない選手選考
- 縦ポンばかりで見映えがしないし勝てる気がしない
- デュエルとフィジカルばかりがクローズアップ
特にプレーに華があって人気もあって技術力がある(とされる)香川や乾、本田。また実績のある岡崎なんかを呼ばないことにも批判が集まっていた気がします。
マリ戦、ウクライナ戦で結果が出なかったからという話も有りますが、それにしても解任するには遅すぎます。
この解任というカードを切るという選択肢を持っているのであれば、せめて東アジア選手権後では無かったでしょうか。
ハリルが本大会でやろうとしていたサッカーとは
ハリルが実践しようとしていたサッカーはこんな感じ。
- 守備はマンツーを基本
- 中盤での組み立ては期待せず、サイドバックから対角線への大きな展開が基本軸
- なのでサイドバックは基本的にそんなに高い位置をとらない
- 3トップの中央もしくはワイドにあててからはコンビネーションでもドリブルでもどうぞ
選手選考も、このサッカーに適応できるか否かという明確な基準があったように思えます。
香川を呼ばなかったのは、まず中盤にはそれほどクリエイティブな能力を求めていなかったから。それよりもボールを奪いきる力や縦への速さを優先したということではないでしょうか。
まずはこのサッカーで0-0の時間を長くする。あわよくばカウンターからの1点をもぎ取っておく。
ビハインドの状態になっても最少得点差の時間を長く保つ。そこから香川や大島のようなタイプを投入して攻撃を活性化。
おおまかにはこんな感じだったのではないかと。
確かにみんな大好きなザックジャパンに比べると、ボールを保持する時間は短く、どちらかというと主導権は相手にあるかのように見えます。実際にはボールを持ってないからと言って主導権が無いわけではないですが。
ザックジャパン、特に序盤から中盤戦にかけては夢のある、未来が垣間見えるサッカーをしていました。ただしそれは、以下のブログでもある通り、2010年南アフリカ大会で、岡田監督が植え付けた守備戦術にザックのサッカーがうまく融合していたから。
ハリルに求めていたものはなんだったのか
改めて就任時前後の記事を漁ってみると、当時の会長である霜田さんのコメントが見つかりました
霜田
真面目さ、勤勉さ、手を抜かないことを非常に要求する監督で、アフリカの選手よりも日本のほうがそういう面で長けている。勤勉性も含めてチームのために戦える、あるいはチームのために犠牲になれるというメンタリティーも日本の選手は持っているだろうという分析をしています。なので、勝利のためには手を抜かず、やれることはすべてやる。勝利するためには完璧主義者でありたいと監督も言っていますので、やはり代表チームは勝たないといけないと思っています。
──監督が日本人のストロングポイントやクオリティーを評価していたとのことだが、具体的にはどういうことか?(小谷紘友/サッカーキング)
霜田
監督の口から聞いてもらうのが一番いいと思いますが、いろんな話をしている中で、欧州で活躍する日本人選手の情報は十分に持っています。日本人のプレーのストロングポイント、ウイークポイントも含めて、どの部分を伸ばしていけば世界と十分に戦えるのかという点をいくつか挙げていました。具体的にいくつか言うと、もともと言われている俊敏性や持久力や勤勉性、しっかり規律をもってコレクティブに戦える資質を日本人はすでに持ち合わせているだろうと言っていました。
ハリルが率いていたアルジェリアがブラジル大会で見せていたのは、ザックリいうと相手の良さを徹底的にリサーチしたうえで消して、一撃必殺のカウンターで仕留めるといったものでした。
分析と戦術を駆使して、相手の良さを消して策にはめて行くスタイル。アジア予選のオーストラリア戦はまさに真骨頂だったはずです。
つまりはこういうサッカーを求めていたはずなので、そのサッカーに至る経緯のなかで、じゃあ今何が出来ていて何がダメなのかと議論すべきなはずです。
ですが、今までの論調は大方針そのものに疑問の目を向ける物ばかり。とくにテレビでよく目にする知名度が高いだけの元有名選手たちはパスサッカーを追求すべきとか、ポゼッションを高めないとと言ったことばかり。
よく武田さんや北澤さんが口にする「コートジボアールやアルジェリアみたいな身体能力で勝ってることを前提にしたサッカーは合わない」という発言は、サッカーを観る目の無さを露呈しています。
なによりも解任という結論に至る時期はとっくに過ぎています。
なぜこんなことになってしまったのか
こんな事態になるまでにはそもそもとしていくつもの伏線があったと思います。それはここ数年だけのものではなく、根強くて改革に時間を要する根本的な問題は無かったでしょうか。
ビジョンが見えないサッカー協会
このサッカーが好きか嫌いかというのは、主観に基づくことだし、いろんな意見があってしかるべきです。ただ残念なのは、協会というか日本サッカー界が、ハリルに何を期待して選んで、その中で何が良くて何がダメだと判断してこういう結論に至ったのか全く分からないこと。
なによりも不満なのは、サッカー協会に一貫したビジョンがまったく見えないことです。
10年後、20年後にどういったスタイルを目指していきたいのか。
理想はきっと全盛期のバルサのようなボールを保持して華麗なテクニックで相手を翻弄して自分たちがずっと主導権を持って戦うスタイルでしょう。
しかしそれもバルサの一面でしかありません。
全盛期のバルサの生命線は、適切なポジショニングによる、奪われた後の凄まじいプレッシングによるボール奪取でした。
バルサを目指すのは、それならそれでいいんですが、それをじゃあ徹底的に目指しましょうという覚悟があるのか。そこに至るプロセスはどうするのかをもっと議論しつくしてほしい。
その結果、アジアでは勝てて、世界では負け続ける時期が30年続いてもいいのか。そもそもアジアでも勝てるのかという話もあります。
ここ最近で一番完成度の高い「自分たちのサッカー」最新作である川崎フロンターレでもアジアじゃ勝てなかったのに、西野や手倉森でどう結果を出す気なんだろう。
— スケゴー (@sukego_fut) April 9, 2018
メディアの責任
サッカーをとりまくメディアの責任もとても重いものだと思います。サッカーがよほど好きではない限り、多くの人が情報を得るのはスポーツ新聞やテレビのニュースでしょう。
ただそこに展開されている情報はとても専門の人が作ったとは思えないものがほとんど。むしろゴシップ紙に近い内容です。
ショッキングで、耳目を集めるセンセーショナルな見出しと記事ばかりを求めて、本質的なところに何一つ切り込んでいない。ただただスターを探して、作って、持ち上げるばかり。
日テレ系のクラブワールドカップなんて目眩がします。
そういう構成もライト層を取り込む為には必要だとは思いますが、それにしてももう少し真摯にサッカーというか、スポーツに向き合ってほしい。
ザックジャパンの時に「ワールドカップ優勝」なんて本田選手のコメントを大々的に取り上げて煽りまくったのは誰だったのか。
そして、結果が出なくて帰ってきた代表を手のひらを返したようにコケ降ろしたのは誰だったのか。この辺りは猛省を促したい。
この解任劇におけるメリットとデメリット
メリット
正直なにも思い浮かびません。スポンサーや世論が少しだけ納得することくらいでしょうか。
リーグ戦で下位に低迷しているクラブが、監督交代に伴って数試合だけ盛り返すことがありますが、それを求めているのでしょうか。
デメリット
死ぬほどあります。
ハリルのプランを台無しにした
ハリルが本番まで奥の手を隠しておくタイプだと言うことは周知の事実なはず。これまでの流れの解答が本大会であったはずなのに。
この数年間を台無しにした
前項の流れからですが、これまでハリルがやってきたことの答え合わせが本大会であるはずでした。
しかし、その答え合わせの機会を自ら放棄してしまいました。そうなるとこの時点で総括せざるを得なくなります。結論は「選手選考に一貫性がなく、親善試合で結果を出せなかった」以外に出しようがありません。
PDCAサイクルのCAをすべて放棄してしまいました。
勝っても負けても何も残らない大会
西野監督で勝っても負けても、そこに勝ち負けという結果しか残りません。日本サッカーにとって最悪なのは勝ってしまうこと。素直に応援できなくなってしまったのはまさにここ。
西野監督で勝ってしまうと、やっぱりこれでよかったんだと協会は安堵し、メディアはもてはやし、ハリル全否定の流れが蔓延するでしょう。
でもそれでいいのか。ザックの反省から、ボールを保持するサッカーに限界を感じ、むしろ苦手なことにチャレンジすること。ワールドカップで指揮したことがあり、一定以上の結果を残したことから今回の監督人選だったはず。
長期的な実力の底上げはやめて、解任ブーストによる1%、2%勝率が上がることに期待したと。そういうことですよね田嶋会長?
監督のなり手が激減するのではないか
日本以外からすると、割とソリッドで戦術的に鍛え上げられてきているというのがハリルジャパンへの見方でした。そして最後まで手の内を明かさないタイプの指揮官であることは世界共通だったと思います。
その監督をこのタイミングで解任するということは、日本サッカー界に見る目が無いこと。ワールドスタンダードに育っていない手札で、攻撃的で見栄えのするサッカーをして、しかもヨーロッパ中堅国くらいは一蹴してしまわないと、本大会直前で解任されるという代表監督として最大の辱めを受けるということが世界に発信されました。
実績のある監督たちがこんな条件の代表監督を引き受けるでしょうか。
今の日本サッカー界に重要なことは
今の立ち位置をまずは正確に把握してほしい
日本サッカーの現在地は、ワールドカップ参加国ではほぼ最底辺。3敗しても世界の誰も不思議だとは思わない。そういうポジションです。
だってサウジアラビアがワールドカップのグループリーグで全敗しても誰も違和感ないですよね。でも日本とサウジアラビアって絶対に勝てるなんて言えないくらいの実力差しかない。
サウジにはそれくらいの期待値で見ているのに、日本代表にだけ数段階上のハードルを設けるのは酷な話です。
今は日本サッカーはどういう段階なのか
Jリーグが開幕して25年。ワールドカップにも5大会連続出場と、日本サッカーはこの25年で急速に進歩を遂げてきました。
しかし、この数年は停滞感が否めません。それはほぼゼロから今までの成長よりも、ここから強豪国への仲間入りへの壁の方が分厚い。そこに滞留している国々がたくさんいるので当たり前のことです。
今、日本が踏むべきステップは、とにかくそういう立ち位置で、どうやって世界を相手に勝つかだけを純粋に追い求めていくべきだと思います。
ザックの真っ向勝負サッカーで結果が出なかった。じゃあハリルのサッカーはどうか。
そこで、まずは「何としても勝つ」ということを目標に戦う。結果は3戦全敗かもしれない。うまくいけばベスト16くらいは行けるかもしれない。
祭りのあとに一喜一憂した後は、その4年間、そしてその4年間にいたるまでの流れをひたすら客観的に総括し、今度の成長プランに適合しているのか、微修正は必要なのかをきちんと議論すること。
このステップをいままで蔑ろにしすぎていた感は否めません。
「オシムって言っちゃったな」という会見に代表されるように、その時の批判を回避するためだけの代表選考と、そちらに世論を流れさせる協会とそれを迎合する多くのメディア。
この構図が適正化されない限り、日本サッカーがこれ以上の成長曲線を描くことは難しいと考えます。
サッカーリテラシーを磨く
一部のサッカーマニアみたいな層が、いわゆるライト層を「わかってないな」と叩くような流れになってもしょうがないんです。
サッカー協会がビジョンを示し、それに対してメディアがキチンと批評をしていくというあるべき姿に立ち戻る必要があります。エンターテイメントでもあるので、その中でゴシップ的なメディアもあっていいとは思います。ただ、それはそういうメディアだとわかった上で、それを楽しめるようにならないと、わけのわからない感情論に基づいた世論が形成されて、サッカーとは別の世界の力で今回のような事態が繰り返されてしまいます。
こちら記事に言いたいことがほとんど書いてあってもはやこのブログの意味とてもハラオチしました。
情報の取捨選択をするリテラシーと、発信する側のモラルというか責任感の両方が醸成されていく。それが文化としてサッカーが根付いていくことにつながります。
もちろん何十年とかかることではありますが、だからと言ってあきらめる話ではありません。
さいごに
世間や協会幹部が求めていたものは人気者を起用して見映えがするいわゆる「俺たちのサッカー」の延長線上で勝つことであったかのように思えます。
何よりもこのタイミングでの解任は、本戦に選出するメンバーに本田や香川が入ってないことに対する、スポンサーからの圧力もしくは協会からスポンサーへ忖度のいずれかではないか。
もしくは田嶋会長続投が決まったのが3月なので、そのあとにハリル解任に着手したのではないか。
邪推ではありますが、そういった推論が容易にできてしまいます。こちらに書いてきた通り、このタイミングでハリルを解任する戦術的な理由なんてまったく思い浮かびません。
今後、日本サッカー協会は代表監督に何を求めるのでしょうか。
日本代表の監督に求められることは、
・スター選手を起用すること
・マスコミ受けが良いこと
・日本人を褒めること
・日本人らしいサッカーを目指すこと
・親善試合で全力を出し、勝つことになってしまった感。
— 結城 康平 (@yuukikouhei) April 9, 2018
正直、はらわたが煮えくりかえるほどの怒りと、無力感・脱力感に襲われています。
しかしそれとは別に、やはり本大会は頑張ってほしい。そして願わくばこんなことが二度と起こらないよう、協会・メディアは襟を正してほしい。それを改めて見直す機会であったと後々思いたいですし、少なくともそれくらいの意味を与えてあげてほしいと思うこの騒動でした。
とにかく継続性あるプランの確立。そして4年間お疲れ様でしたでみたいな印象だけを語ったものや、「ハリルジャパン 内紛劇の真相」みたいなゴシップ記事ではなく、客観的で建設的な検徹底した検証。
これをメディアにもサッカー協会にも強く求めたいと思います。